概要
肖像権とは、自己の容貌・姿態をみだりに撮影・公表されない権利を指す。明文の単独法は存在せず、判例の積み重ねによって人格権の一部として承認されてきた権利であり、実写撮影を伴う個人動画クリエイターやコスプレイヤー、配信者の活動領域で頻繁に問題化することが観察される。
肖像権の法的位置づけ
肖像権は著作権のように単一の法律で定められた権利ではなく、最高裁判例(昭和44年・京都府学連事件、平成17年・和歌山毒入りカレー事件など)により憲法13条の幸福追求権を根拠として導かれた権利と整理されている。条文ベースの権利ではないため、侵害の成否は「社会生活上受忍すべき限度」を超えるか否かという比較衡量で判断される構造を持つ。
このため、撮影・公表された側が損害賠償(民法709条)や差止請求を求める形で争われるケースが中心となり、刑事罰が直接科されることは原則として無い点が他の規制法と異なる特徴である。
二つの側面 ― 人格権とパブリシティ権
人格権としての肖像権
容貌をみだりに撮影・公表されない人格的利益を保護する側面である。一般人・著名人を問わず認められ、無断撮影・無断公開・改変・SNS転載などが論点となる。
財産権としての側面(パブリシティ権)
著名人の氏名・肖像が持つ顧客誘引力を排他的に利用する権利として、平成24年・ピンク・レディー事件最高裁判決で承認された。VTuberのキャラクター肖像や著名コスプレイヤーのグッズ無断販売など、近年の個人クリエイター領域でも参照される判例として位置づけられている。
個人動画クリエイターが直面する典型場面
実写撮影を伴う作品では、共演者・通行人・建物利用者など、撮影対象となる第三者全員からの承諾取得が論点となる。屋外ロケでは背景に映り込む人物の処理が問題化しやすく、実務上はモザイク処理または事前の撮影同意書取得で対応する運用が一般化している。
共演契約書には「肖像の利用範囲・期間・媒体」を明記する形式が標準化しつつあり、後日のストリーミング配信展開や二次創作での利用可否を巡るトラブル予防として機能している様子が観察される。
VTuber・配信者特有の論点
VTuberの「キャラクター」については、声優本人の肖像権とは別に、キャラクター画像に関する著作権・商標権・パブリシティ権が複層的に絡む構造が観察される。中の人交代時の権利帰属、企業所属VTuberの卒業後の活動範囲などは、肖像権だけでは解決できず契約条項の設計に依存する領域となっている。
個人配信者のアーカイブ切り抜き動画も同様に、被写体である配信者の肖像・パブリシティ権と、切り抜き作成者の編集著作権が並立する構造として整理されている。
篠
編集者コメント ── 篠塚 律
肖像権を巡るトラブルは、個人動画クリエイターの活動が拡大した2020年代以降、編集部の観測範囲でも明確に件数を増やしている。とりわけ問題化しやすいのが、過去に共演した相手との関係悪化後、既発表作品の取り下げ要求が発生する局面である。
この種の紛争は法律論としては「公表の継続的同意の有無」が論点となるが、実務上は契約書の文面が揃っていない個人間取引で起きやすい構造が確認できる。共演者間で書面を交わさない慣行の名残が、プラットフォーム規模の拡大に追いついていないと評価できるだろう。
編集部としては、肖像権を「撮影前に同意を取れば終わる権利」ではなく、公表媒体・期間・改変可否を継続的に管理すべき権利として捉える視点を持つことを、活動の長期化を意図するクリエイターには推奨したい。
執筆者プロフィール
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篠塚 律 (しのづか りつ) Indie Creator Lab 編集長 編集統括として特集企画・業界コラム・規制動向を担当。個人クリエイター領域における法制度の変遷を継続的に追跡している。 主担当: 編集統括・特集企画・業界コラム・規制動向 / この執筆者の記事一覧を見る → / 編集部メンバー一覧 → |
